能面打の技と心を守り伝える
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修復事例:玉田神社 奉納「天狗面」の修復
1.奉納「天狗の面」の来歴
面裏の銘文(右側)によると、「享保二酉年 施主 京寺町 戸田五良三○」とあり、1717年に戸田氏がこの天狗の面を奉納している。面裏の左側には、「文政十亥年 再興施主 中○村 戸田長右衛門」とあり、1827年に戸田長右衛門氏が、この天狗の面を、修復し、奉納したのではないかと思われる。
この戸田氏の在所「中○村」は「中嶋村」とも読み取れ、御牧八カ村の一つの「中島村」が、江戸時代には「嶋」の字を使っていたのではないかと、推察される。
修理の状況から、当初は墨書であったと思われるが、再興時又はそれ以降に、銘文が朱書きに改められた形跡がある
2.元の天狗の制作と問題点
- ① 材質は不明であるが、木地は柾目使いで、永年の経過とともに乾燥収縮が進み、タテ割れがしやすくなっている。
- ② 木地固めと下地処理が、漆ではなく、胡粉を用いている。膠で溶いた胡粉は漆に比べ、成形が容易であるが、接着性において、強度は落ちる。
- ③ 胡粉の上に、朱の漆を塗って、仕上げられている。よって、胡粉と漆の層の間に弱点があり、吸湿などにより漆の剥離が進みやすい。
3.破損状況
- ① これらの欠点が重なり、元の面は過去に数回タテ割れが発生している。外見からは、今回を含め3回は発生している。*修復時に、朱漆の層が5層観察されたことより、過去に4回修復されたと判断される。
- ② その割れた個所から、表面に塗られた漆の剝離が各所で進んでいる。特に右下の顎の周辺の剝脱が顕著である。
- ③ 更に、過去のタテ割れ個所に置いて、根本的な対策・処置が行われなかったために、鼻の左側のタテ割れ個所は、接合面がずれている。また、過去の修復時に塗り重ねられた朱の漆に よって、表面が部分的に引っ張られて、割れの原因を増長させている。
4.修復方針
- ① 当初は、タテ割れ個所の接合と、その周辺の漆の剝脱箇所の塗り直しを予定したが、修復を始めると、漆の剥離がない個所でも、脆弱な状態であることが解り、これでは根本的な問題解決にならないので、今後100年は保つ修復を行うことにした。
- ② 但し、面裏の寄進者の名前はそのまま残す。
5.修復手順とその状況
① 過去のタテ割れ個所を分離 (4ピースに分解)
② 接合面の漆下地と補強の「ほぞ」と「ひご」の加工
③ のり漆による接着(面裏の状況)
のり漆による接着(接着後の漆固め)
④ 漆下地の埋め戻し(表面の不陸整形)
⑤ 全体の塗膜剥し(鼻を除いた部分)
⑥ 補強の麻布貼り(タテ割れ防止)*100年保たせる加工
⑦ 漆下地
⑧ 裏面 傷埋め戻し整理と布貼り
⑨ 表の下地研ぎ
⑩ 表の下塗り(黒漆)
⑪ 朱漆の上塗り
⑫ 眼と牙の金箔貼り(完成・修復完了)
完成・修復完了
完成・修復完了